Tabula Rasa

東京支部便り Vol.2  岡山人が東京で営む「超地域密着型」道具屋さん

こんにちは!タブララサ東京支部のなおです。
こちら東京でもコロナはひとまず落ち着き、飲食店の時短要請が10月25日に明けました。この日をどれだけ待ちわびたことか。引き続き密には配慮しつつも、この「普通」のありがたさを存分にかみしめるつもりです。

最近のニュースといえば、偶然仕事で出会った方が、なんと岡山出身で。しかもとっても素敵な取り組みをされているので、これは皆さんにお知らせせねば!
ということで、東京支部便りVol.2です。



古着・演劇・音楽の街下北沢から小田急線で1駅、世田谷代田(せたがやだいた)駅徒歩数分の場所にある家具と雑貨のお店「ダイタデシカ、」。店主である南秀治さんは岡山市出身、しかも私の実家のすぐ近所!お店に並んでいた商品の中に岡山県新庄村のものがあり、その話から南さんの出身が判明して大興奮。離れた場所で地元の人と出会うって、格別な嬉しさがありますよね。

さて、店名には「ありがとうを届ける道具店」という言葉が添えてあります。Webサイトにも、次のようなコメントが。

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お誕生日、記念日、お祝い事だけでなく、日常のちょっとした「ありがとう」を誰かに伝えたいと想ったとき、是非このお店に立ち寄ってみて下さい。きっと大切な人へありがとうの気持ちを届けてくれる「素敵な道具たち」に出会えることでしょう。

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さらに南さんのお話を聞いていると、この「ありがとう」にはもっと深い意味がありました。

元々、IT企業の営業として働いていた南さん。資本主義経済の中心に身を置く中で、高く売る一方で安く仕入れることを良しとする経済に疑問を持つようになります。そこで偶然興味を持った家具職人になるべく、働きながら専門学校に通い家具作りを学び、工房を持とうと決めたのが30歳を過ぎた頃。場所を探しまわったところ、世田谷代田にたどり着いたそうです。

世田谷代田は賑やかな下北沢のお隣にもかかわらず、どことなくのんびりとした住宅地。かつては下北沢よりも賑やかな商店街があった場所ですが、1964年に東京の街の動脈とも言える都道環状第7号線(環七)が通ったことにより街は東西に分断、勢いは失われていきます。南さんが世田谷代田に出会った2011年頃はすっかり静かな街でした。

数十年の営業を終え閉店してしまったクリーニング店を工房兼店舗として借りることになり、平日夜や週末にリノベ作業をしていると、近所の方が珍しがって声をかけてくれるようになります。次第に街の人と顔見知りになり、消防団や町内会にも参加し高齢の方が多い街の事情も知ることになります。何かできることはないだろうかと仲間たちと2012年に始めたのが「世田谷代田ものこと祭り」。街の空きスペースやガレージにものづくりにまつわるブースを点在させ、お客さんは巡って楽しむイベントです。そうして、世田谷代田の街に若い世代が集まる珍しい光景が生まれました。毎年続けるつもりで始めたイベントは、地元の方々の協力で神社の境内を会場の一つとして使えるようになるなど、年々魅力アップしていきました。

南さんは、その過程がとても印象的だったと語ります。「高齢の方々に、イベントのためのお金や労働的手伝いをお願いするつもりは全くなかったけれど、僕たちの動きを見てできる限りのサポートをしてくださった。今もそう。他所から来た若者を受け入れてくれた」。街の方々のそのサポートに対して「ありがとう」の気持ちを毎年のイベントでお返しをしているようなものだとのこと。
お店のコンセプトもそれと同じで、誰かから受け取った嬉しいことに、ありがとうの気持ちを返す。これがとてもシンプルな社会のあるべき姿なのではないか、という意味が含まれているのでした。ギフトエコノミーそのままを実現しているんですね、南さん。

そして、南さんの家具屋さんの経営スタイルもちょっとすごいんです。よほどの理由がない限り、台車で運べる範囲にしか家具は売らない、とのこと。安くないお買い物となる家具は、メンテナンスをして長く使って欲しい。椅子の張り替えやテーブルの研磨し直しなど、呼べばすぐ来てくれる信頼できる家具屋さんが近くにいることが街にとっては良いのではないか、という考えです。家具設置の際に、コンセントの移動が必要な時もあり、電気工事の免許も取得。簡単な水回りの頼まれごとにも対応できるようになりました。「超地域密着型の家具屋です」と、南さん。地産地消やファームtoテーブルなど、飲食店では想像しやすい地域密着型ですが、家具屋さんは珍しい。「この方法で、ちゃんと生活していけます」という言葉を聞き、なお感心しました。

世田谷代田に移ってきて約10年。南さんの3人のお子さんは、「『ダイタデシカ、』の南さんのところのお子さん」と認識され、街のおじいちゃんやおばあちゃんにかわいがってもらっているそう。街角の商店のおじさん、おばさんは、いつも声をかけてくれます。知り合いファミリーも何組か引っ越してきました。東京の中でも、こんなに人と人とが近い関係を築くことができることを教えてくれて、南さんのライフスタイルに大きな影響を与えた街。そのことにも、「ありがとう」という気持ちだそうです。


街のこと、環境のこと、タイムリーな選挙のことなど、すべてのことにおいて「これをしなければならない」ではなく、「自分にできることをする」っていう姿勢だよなー、と改めて。そして、自分にとっての仕事やお金、幸せの価値観を時には疑い、見直してみるって大切だな、と思ったのでした。そうすると、住んでいる街との付き合い方も変わるのかもしれませんよね。


「ダイタデシカ、」
〒155-0033 東京都世田谷区代田5-9-7
営業日: 金, 土, 日, 月
営業時間: 13時 – 20時
https://www.daitadeshika.com


「DAITADESICA from aomori」
(南さんが関わるもう一つのお店)
〒155-0033 東京都世田谷区代田3-58-7 世田谷代田キャンパス
営業日・時間:月・火・木・金 11:30-19:30
土・日10:00-18:00 水曜定休
http://daitadesica.com